[書籍] 人間はどこまでチンパンジーか?
(編集中)
「人間はどこまでチンパンジーか?―人類進化の栄光と翳り」(ジャレド・ダイアモンド)を読む。ヒトは、およそ700万年前に共通祖先から分かれた2種のチンパンジー(コモン、ピグミー)とDNAが約1.6%しか違わない(シブリーとアールキストのDNAハイブリダイゼーション法による)。
えっ、1.6%しか違わないの?と驚いてしまったのだが、4万年前に今の人類と同じクロマニヨン人(1、2)が現れるまでは、数百万年の間、解剖学的進化(*1)だけで文化的にはほとんど進歩しなかった、つまり、第三のチンパンジーのままであった、ことを知らされれば納得がいく。元旦にヒトがチンパンジーと枝分かれしたとすれば、12月30日にクロマニヨン人が現れたことになる。
P83 私は、4万年前までには、私たちは完全に現代的な構造と行動と言語能力を備えており、クロマニヨン人はジェット機の操縦だって習えたろうといいました。もしそうならば、大躍進のあと私たちが文字を発明し、パルテノンを作るまでに、なぜこんなに長い時間がかかったのでしょう?その答えは、偉大な技師であったローマ人たちがどうして原子爆弾を発明しなかったのかに対する説明と同じものかも知れません。原子爆弾を作るまでには、火薬と計算尺の発明、原子理論の発展、ウラニウムの分離など、ローマ人のレベルから2000年の技術的進歩が必要でした。同様に、文字とパルテノンに至るには、クロマニヨン人の到着以後、何万年の間に蓄積された発展がありました。それは、弓矢と陶器、栽培化、家畜化などです。本書は、五部からなります。大躍進までは、何百万年もの間、人類の文化の発達は蝸牛の歩みにも似たものでした。この歩みが遅いのは、遺伝的変化の速度が遅々としたものであるからです。躍進のあと、文化の発達はもはや遺伝的変化に捕らわれてはいませんでした。私たちの身体の構造はほとんど変化しなかったのに、過去4万年の間には、数百万年の間に起こったよりもずっと多くの文化的な進化が起こりました。
第一部は、4万年前の大躍進、すなわち1.6%の萌芽、ヒトが人間になるまでの進化の歴史。
第二部は、ヒトの性行動の進化について。類人猿(オランウータン、ゴリラ、コモンチンパンジー、ピグミーチンパンジー(ボノボ))と比較したりしながら、科学します。
第三部は、人間だけの特徴、言語、芸術、農業、身体に良くないもの(タバコ、酒、薬物)の摂取などについて。
第四部は、いかにジェノサイド(大量殺戮)が多かったかという話。
第五部は、いかに環境破壊してきたかという話。
主旨は、環境破壊と国際紛争を食い止めるための解決策の提案ではなく(著者曰く、それは他で既になされている)、過去を知ること。本書の魅力は、さまざまなトピックが、人類学、分子生物学、動物行動学、進化生物学、美術史、病理学、言語学、民俗学、考古学、農学、地理学、歴史学、心理学、環境科学、社会学、倫理学、性科学などの知見のもと、具体的に語られていること。
個人的な趣味で、一部を紹介する。
■(第二部)類人猿との睾丸の重さ(グラム)、ペニスの長さ(センチ)、性交時間の比較、体位
ヒト 14 12.7 4分
ピグミチンパンジー 110 7.6 15秒
コモンチンパンジー 110 7.6 7秒
ゴリラ 4.5 3.2 1分
オランウータン 3.8 15分
睾丸の重さは、性交の頻度に比例するそうで、雌のゴリラは、出産後に性的活動を回復するまでに3、4年かかり、次の妊娠までの間、1ヶ月のうちほんの数日しか性行動しないので、1年に数回がいいところ、とのこと。対してコモンチンパンジーは毎日、ピグミーチンパンジーは毎日数回。ヒトは、まあ、人それぞれということで、、、。
ペニスの長さは、理由が分らないらしい。体位が豊富だからという考えは却下です。対面位はヒトの専売特許ではなく、オランウータンやピグミーチンパンジーも好む姿勢、ゴリラもときどきとるそうです。オランウータンは対面位だけでなく、後ろから横からさらに木にぶら下がったりで、バリエーションは豊富です。だって、性交時間15分ですよ。凄い!!!因みにフクロネズミは12時間だそうです???
チンパンジーは、あっという間に終わってしまうのですね。その代わり数で勝負ということか!?
つーか、こういう研究もしてるんだ、楽しそう~~♪その他、ここではちょっと書けない、性に関するお話が盛りだくさんです。なんつたって100ページ割いてますから(全体は534ページ)。
■(第三部)
言語については、トーマス・ストルーセイカーの研究を引きついだロバート・セイファースとドロシー・チェニー夫妻のベルベットモンキーの警戒音(アラームコール)の研究を紹介。「ヒョウ」「タカ」「ヘビ」「ヒヒ」「その他の捕食動物」「見知らぬ人間」「優位のサル」「劣位のサル」「他のサルの行動を見る」「ライバルの群れを見る」の10個が確認されているとのこと。これは、単語ではなく、「ヒョウ」とコールすれば、「ヒョウに注意しろ」というメッセージ(*2)。
10年近くの歳月をかけてようやく10個の警戒音を聞き分けたということで、人間には聞き分けられないような、もっとたくさんの音があるかも知れないということ。まったく知らない外国語を聞き分けることを想像すれば、動物の声を聞き分けるのがいかに難しいかが分る。
また、なぜ野生のチンパンジーや類人猿の音声コミュニケーションについての研究が無いかというと、ベルベットモンキーの群れの縄張りの端から端まで600メートル足らずなのに対して、チンパンジーは何キロもあるので、ビデオカメラやスピーカーなどを持ってプレイバック実験するのが困難だからというわけです。
あと、ピジンとクレオールの話とか、身体に良くないもの(タバコ、酒、薬物)をなぜ摂取するかについては、ハンデキャップ理論(雌への誇示)を援用していたがちと苦しい。
■(第四部)ジェノサイトの話
アメリカ人によるインディアン殺害(1620-1890)、オーストラリア人のアボリジニ殺害(1788-1928)、タスマニア人殺害(1800-1876)。第一次世界大戦中のトルコ人によるアルメニア人殺害、第二次世界大戦のナチによるユダヤ人殺害、ユーゴスラビアのクロアチア人によるセルビア人殺害。大戦終了時、セルビア人によるクロアチア人殺害。ルワンダのフツ族によるツチ族殺害(1962、63)、ブルンディのツチ族によるフツ族殺害(1972、73)。
史上最大規模として知られるソビエト政府が政治的反対者に対する粛正、推定2000万人(1926-1939)、推定6600万人(1917-1959)。クメール・ルージュによる数百万人のカンボジア同胞の粛清(1970年代)。インドネシアにおける数十万人の共産主義者の殺害(1965-1967)。
など、数十件のリストを上げて定義と動機について説明。
また、同じ種のメンバーを殺すのは人間だけか?の問いには否。最近の研究では、多くの動物(すべてではない)でも同種内の殺し合いが記録されている。ライオンやオオカミ、ハイエナ、アリといった社会性で肉食性の種では、殺害は、ある群れの成員が隣の群れの成員を協同して攻撃する。
人間にもっとも近いうちの2種。ゴリラとコモンチンパンジーも仲間に殺される可能性が高いことが示されています。たとえば、ゴリラでは、雄たちが、雌のハーレムの所有をめぐって闘争し、勝者は敗者のみならず、敗者の子供たちまで殺すことがあるそうです。
さらに、こんなにたくさんの人間を殺すのは近代文明の病理かとの問いにも否。(ピグミーやエスキモーなど)いくつかの文字をもたない民族は、他の民族(ニューギニア人、大平原インディアン、アマゾン・インディアンなど)よりずっと非戦闘的。ニューギニアにおける大半の戦闘は、死者をほとんど出さない小競合いだが、ときにはある集団が隣接集団を大虐殺することもある。
■(第五部)
続きは明日。疲れたので寝る。08/08 00:15
■註
*1:
P225 ヒトの脳の大きさの進化
by
「歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化」(スティーヴン・ミズン)
アウストラロピテクス 400~500cc
アルディピクス・ラミダス 1992、1994年 エチオピアのミドル・アワシュで発見。最古の化石。450万年前
アウストラロピテクス・アファレンシス 標本AL288・1通称「ルーシー」 350~300万年前
身長1メートル強。現在のチンパンジーと同じ大きさ。半地上、半樹上。
ホモ・ハビリス 674cc
標本OH7 オルドヴァイ渓谷 175万年前
ホモ・ルドフェンシス 775cc
標本KNM-ER1470 クービ・フォラ 175万年前
ホモ・エルガステル 880cc
標本ナリオコトメ(トゥルカナ)ボーイ 160万年前
完全な二足歩行、内耳形態が現代人と同じ
ホモ・エレクトス 800~1000cc 100万年前
ホモ・ハイデルベルゲンシス 1200~1400cc 40~50万年前
ホモ・ネアンデルターレンシス 1400~1800cc 30万年前
ホモ・サピエンス 1400~1600cc 15万年前
ホモ・エルガステルは完全な二足歩行性だったかもしれないが、ほかの特徴はまだアウストラロピテクス的だった。ナリオコトメの標本の脳は、現生アフリカ類人猿やアウストラロピテクスの450ccの脳より大きいが、主にこの種の体の大きさを反映したに過ぎない。ホモ属の脳が著しく大型化し、体の大きさのせいだけではないと言えるようになるのは60万年すぎてからだ。遅くとも10万年前、おそらく25万年前には現代人の脳の大きさになっていた。したがって、脳の拡大は、ホモ・エルガステルが最初に現れたあと、約100万年間は事実上の静止状態にあった。
*2:「歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化」(スティーヴン・ミズン)P156より
カーディフ大学の言語学者アリソン・レイの全体的原型言語説。警戒音はそれでひとつのメッセージ、それを「全体的」といい、それで相手に行動を促す、すなわち「操作的」という。これに対して人間の言語は、単語を組み合わせる、すなわち「構成的」言語で、それで、何かを指し示したり「指示的」、行為を促したり「操作的」する。
■関連ぺーじ&サイト
・「霊長類の進化とその系統樹」(by京都大学霊長類研究所)
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